「これ本当に怖いって思ってくれるのかな」
「さぁの」




仁王くんをちらりと横目で見ると、彼はつまらなさそうに座っていた。
文化祭1日目のあたしたちB組の模擬店は『お化け屋敷』である。
最初は普通の喫茶店にしようってなっていたのに、赤髪の誰かさんが
「お化け屋敷とかよくね?」という発言でみんながのってしまい、
最終的にはお化け屋敷になってしまったのだ。



そして脅かす役になったあたしと仁王は今お客が来るまで待っているのである。




「みんなひどいよね」




B組は部活をしている人が多いから、部活の出し物に出ている人もいる。
更にカラオケ大会に出る人や、お笑い大会とか、そんなのにも参加する人がいるから
午前中時間が空いていたのはあたしと仁王くんと少数の人たち。
そんなあたしたちに午前中の仕事を押し付けちゃって。
おかげで楽しみにしていたベストカップル大会も見れないじゃんか!




「あれ?けど仁王くん、ミスター候補に選ばれてなかった?」
「何のことじゃ」
「いや、だからミスター…」




そう聞くと彼は「めんどい」そう一言言った。
もったいなあ。ミスターになったら1年間食券もらえるのに!
なんて思ってると、教室のドアが開く音が聞こえた。
ああ、もう開店時間か、なんて思いながら小さな穴をのぞく。
すると入ってきたのはベストカップル候補の西沢くんペアだ。




「西沢くんの彼女可愛いよね」
「そうか?猫かぶってるようにしか見えんけど」




同じく隣の仁王くんも小さな穴から2人を見る。
確かに、彼女は怖がっていてぎゅっと西沢くんの腕を掴んでる。
いつもあの2人はくっついていて、ラブラブである。
彼氏がいないあたしにはそれがすっごく見て嫌になる。
あーあ。あたしも最後の文化祭くらいあーやって彼氏とまわりたかったなあ。




「あいつ等には特別サービスなり」




あたしたちのところへ来たときに仁王くんがそう言った。
特別サービス?なんて思ってると仁王くんはぬるぬるした手袋をはめた。
そして下の方から西沢くんの足を掴む。そのぬるぬるとし感触といきなりのことに
びっくりした西沢くんは「うわああ!?」と叫ぶ。
そして次に仁王は西沢くんのシャツの中にぬるぬるこんしゃくを入れた。
あたしも負けじと彼女さんのほうを音声テープを流しながら
怖いお面を被って脅かす。

2人は叫びながら走って出て行った。
そんな2人を見てあたしたちはくすくす笑う。




「仁王くん、最高!あたしあの2人にムカムカしてた!」
「それはよかったナリ」




それからお客さんがどんどん来て。
カップルが来るたびにあたしたちは特別サービスをしていた。
カップルさんには申し訳ないんだけど…!


そして少しお客の数が落ち着いたときに
遠くから「では、今からベストカップル大会を行います!」というアナウンスが聞こえた。




「いいよね、ベストカップルって」
「そうかのう」
「あたし彼氏作ってベストカップルに出て優勝するの夢だったんだけどなあ」




1年生のとき、文化祭でベストカップルで優勝したカップルが
ステージでキスして、お互い笑い合っていたのがものすごく輝いて見えて。
あたしもあんな風になりたいなあって思った。
けれど、それから3年生になって文化祭当日になっても
彼氏1人作れていないのが現実。




「出ればええじゃろ?」
「仁王くんさ、意味わかってる?あたし彼氏いないってば」
「じゃから、」




その先の言葉は、教室のドアを開ける音で遮られて聞こえなかった。
「何て言ったの?」と聞くと、仁王くんはニッと笑ってあたしの腕をガシッと掴んだ。
そして「ほら、行くぜよ」と言って真っ黒いカーテンから飛び出した。
ちょうどそこにはお客さんがいて「わっ!」と驚いていた。
けど、そんなの気にすることなく仁王くんはあたしを連れて走り続ける。



そして着いた先はベストカップルの会場。
やっぱり文化祭のメインって言っていいほど人気のイベントだから
たくさんの生徒が集まってる。
今、西沢さんペアが終わったところだ。
なんて見ていると、またぐいっと腕を引っ張れた。




「仁王くん、どこ行くの!?」
「ステージに決まっとるじゃろ」
「ええ!?」




ステージって、あのステージ!?
何を言っているのかな、仁王くん!
止めようとするけれど、やっぱり男の子の力は強いわけで。
あっという間にあたしと仁王くんはステージの上にいた。




「ええっと、仁王くんとさん…?ペアは西沢さんペアで終わりなハズ…」




あたしたちを見て司会者はびっくりしている。
もちろん、ここにいる会場みんなだ。
ちょっと仁王くん、変な真似はやめようよ!なんていうと
仁王くんは「ええから、ええから」と言うだけだった。(だからよくないってば!)




「エントリーナンバー、14番。仁王雅治とじゃ」




仁王くんは西沢さんペアからマイクを奪うとそう言った。
するとさっきまで驚いてシン…としていた会場はわぁー!と盛り上がり
司会者もノリに合わせて「で、では、お2人には告白シーンを再現してもらいます!」と言った。
ええ!?告白シーン再現って、その前にあたしたちカップルじゃないよ!
仁王くん、どうするの!なんて目で訴えていると急に仁王くんは
真剣な目であたしを見るようになった。
そして口を開く。




「俺はずっとのことが好きじゃ」




また会場がシンとなって仁王くんの声が響いた。
仁王くん!?どうしたの?
これって、冗談じゃないんだよね…?
だって、仁王くんの目が見たことのないくらい真剣なんだもん。
ドクン、ドクン、と胸が高鳴る。




「今は詐欺師じゃない…?」
「当たり前じゃ。詐欺師じゃない仁王雅治ぜよ」
「本当に…?」
「本当じゃ。、付き合ってくれんかのう?」




千尋、と呼ばれる度に胸が高鳴る。
ああ、自分で自覚していなかったのかな。
仁王くんのこと、好きだって。




「うん…!あたしも仁王くんのこと大好き!」




そう言うと、仁王くんはあたしをぎゅっと抱きしめてくれた。
その瞬間静かだった会場もわぁー!と再び盛り上がった。
司会者も「すごくリアルな再現でしたね…!」と言う。




それから、集計の結果、ダントツであたしたちが1位だった。
感想には
『再現じゃなくて、その場で本当の告白をしているみたいだった』
『これって本当に再現だったの!?』
なんて書いてあったらしい。


表彰式のときにはあたしから、
あれは本当の告白で、このイベントであたしたちはカップルになりました。
と言った。するとみんなから「おめでとう!」と祝福された。




「仁王くん、びっくりしちゃったよ。まさか、ベストカップルで告白するなんて」
「夢じゃったんじゃろ?ベストカップルで優勝すること」
「うん。おかげで夢が叶ったよ。ありがとう」




司会者が「では、優勝カップルのお2人にはキスをしてもらいます」と言った。
あたしと仁王くんはお互い向き合う。そしてあたしにしか聞こえないくらい
小さな声で仁王くんは「、愛しとる」と言ってキスをした。
再び、会場が盛り上がった。





それから、文化祭のベストカップルで14番目に選ばれ、カップルじゃない
2人が告白をすると必ず実るという、ジンクスが生まれた。

 


 

(じゃから、俺と出ん?)



(10.09.23)